こんばんは。
展覧会の鑑賞報告です。
先日の顔真卿の書道展を見た後に行きました。こちらも今注目の展覧会です。
「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」
ミラクルワールドなので、色も派手にして見ました。見に行ってから、もう三週間になろうとしていますが、展示替えを今週末(前期3/10まで)に控え、とにかくその前に記事にしたいと思います。相変わらず、まとまりはないですが、しばし、お付き合いください。
それでは、御一緒に展覧会場へ・・・
※ 以下の記述は奇想の系譜展の作品説明、図録、Web上の解説等を参考に記述しています。また作品の写真などは図録を撮りました。
[目次]
I.展覧会概要
(1)展覧会:奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド
こちらの展覧会は、東京大学文学部教授で美術史家の辻惟雄(つじのぶお)氏が1970年に書いた
「奇想の系譜 又兵衛-国芳」
(美術出版社 1970/ぺりかん社(改訂版) 1988/ちくま学芸文庫 2004/小学館 2019(大判・図版増補))
で紹介された6人の画家+本展覧会が独自に加えた2名の画家の作品を通じて、当時は江戸の本流とみなされていなかった画家の自由で斬新で革新的な「奇想」の画を紹介するものです。
その画家たちとは・・・
エントリーNo.1:「幻想の博物誌」伊藤 若冲(いとう じゃくちゅう)
「奇想の系譜」所属。1716年(正徳6)-1800年(寛政12) 京都・錦小路出身
エントリーNo.2:「醒めたグロテスク」曽我 蕭白(そが しょうはく)
「奇想の系譜」所属。1730年(享保15)-1781年(天命元) 京都出身
エントリーNo.3:「京のエンターテイナー」長沢 芦雪(ながさわ ろせつ)
「奇想の系譜」所属。1754年(宝暦4)-1799年(寛政11) 丹波・篠山出身
エントリーNo.4:「執念のドラマ」岩佐 又兵衛(いわさ またべえ)
「奇想の系譜」所属。1578年(天正6)-1650年(慶安3) 摂津・伊丹出身
エントリーNo.5:「狩野派きっての知性派」狩野 山雪(かのう さんせつ)
「奇想の系譜」所属。1590年(天正18)-1651年(慶安4) 九州・肥前出身
エントリーNo.6:「奇想の起爆剤」白隠慧鶴(はくいんえかく)
美術館推薦。1686年(貞享2)-1769年(明和5) 駿河・原宿(沼津)出身
エントリーNo.7:「江戸琳派の鬼才」鈴木 其一(すずき きいつ)
美術館推薦。1795年(寛政7)-1858年(安政5) 出身不明(近江?)
エントリーNo.8:「幕末浮世絵七変化」歌川 国芳(うたがわ くによし)
「奇想の系譜」所属。1798年(寛政9)-1861年(文久元) 江戸・日本橋出身
と言った面々です。 ちなみに各画家の紹介は展覧会でのそれぞれの展示エリアでの紹介をそのまま使わせていただいています。
今では、それぞれの画家単独の展覧会でも人気を博するキラ星のスターたち。
一体、どんな奇想が飛び出すのか、それは、あとのお楽しみ!
(2) 会場:東京都美術館(上野)
JR上野駅 公園口から東京文化会館と西洋美の間の道を抜け、動物園の方に向かい、動物園には行かず右の茂みの方に進んでいくと現れます。駅からはちょっと遠めで5・6分か、もう少しかかるかもしれません。のんびり上野公園の雰囲気を楽しみながら歩きましょう。
(3) 会期・開館時間・展示替等
2019/2/9(土)~4/7(日)
・月曜休館ですが、これから(2019/3/8時点)だと4/1(月)は開館です。
・開館時間は9:30~17:30。入館は30分前まで。金曜日、3/23(土)、3/30(土)、4/6(土)は20:00までのナイトミュージアムです。
・展示替えは前期:2/9(土)~3/10(日)、後期:3/12(火)~4/7(日)。ただし、屏風など一隻ずつ変えるなど、作品により異なるものも若干ありますので、Webサイトなどでご確認の上、訪問時期を決めてください。
(4) 料金
・大人1,600円、大学・専門学校生1,300円、高校生800円、65歳以上1,000円、中学生以下無料
・六本木ヒルズの新・北斎展とのセット券が2,800円(それぞれの展覧会が1,600円→1,400円)で、お得です。(私はこれを買いました)
・今からだと3/20(水)はシルバーデーで65歳以上の方は無料です。(混雑注意)
(5) 訪問時間と混雑状況
2/17(日) 14:55頃 鑑賞時間は約80分。
・事前にWebでチケットを購入していたので並びませんでしたが、チケット売り場はそこそこ並んでました。(事前購入。お薦めです)
・展示室への入場制限などはありませんでした。
・特に入ってすぐの若冲の展示エリアなど、混んでいるところはありましたが、並んじゃって絵の前に行くまで時間がかかってしょうがない・・・というような混み方ではありません。
・会期末に向け春休み、花見もあり、混雑が予想されます。美術館のツイッター等で随時確認してみてください。特に3/2(土) テレ東の「美の巨人たち」で若冲一時間特集を放送していたので、これから混むのがヤバそうです。
(ツイッターは
【公式】奇想の系譜展@東京都美術館 (@kisou2019) | Twitter
Check it now!)
(6) 美術館メモ
・写真撮影はNGです。
・ミュージアムショップでは、図録2,700円。絵ハガキやクリアファイルもあります。
(7) 行くきっかけ(情報源等)
詳細は2019年の「日経おとなのOFF」1月号とチラシミュージアムですが、前のムンク展に行ったときに、次の展覧会情報として見ていたので、なんとなく行こうとは思っていました。
II. 展覧会所感
(1) 個人的な所感
辻氏が「奇想の系譜」を書かれた1970年はまさに私の生まれた年。約50年前に書かれた本がその後の江戸絵画の評価の流れをつくり、そして今なお、その新鮮さを失わず企画展が開催される。この本の着眼点そのものが「奇想」で力のあるものなんだろうなぁ。(本は読んでいませんが・・・)
そんなことを思いながら、展覧会を見てきました。
ちなみに、この方は東大で、駒場寮(今は無き昔の東大学生寮)の後輩がアニメーション監督の高畑勲氏だそうです。(本展とは関係ないですが、図録のインタビューに書いてあって、「へぇ~」と思ったのでご紹介まで)
では、気になる作品へ。
(2) 展覧会の構成と気になる作品
会場の展示は、こんな感じです。
それでは、会場に。
1 幻想の博物誌 伊藤若冲
もう、今や押しも押されぬ江戸No.1人気絵師、若冲。私の若いころは、まだそんなにメジャーではありませんでした。この前、「美術飲み」をした後輩は十ウン年前に入社したとき「私は若冲が好きです」と言っていました。それを聞いて「マニアックな奴」と思っていたくらいですから。それが、今や・・・彼女は先見の明があったんですね^^。
「旭日鳳凰図」1755(宝暦5) 宮内庁三の丸尚蔵館所蔵
若冲は、執拗なまでの緻密な絵を描くかと思えば、とぼけた蛙の絵等、振り幅の大きな人です。この鳳凰図や次の鶏図等のように裏彩色で鳥の羽の透明感を出すなど、描きに描きこまれた絵はやっぱり好きです。また、「美の巨人たち」の解説にもありましたが、裕福な青物問屋の旦那だったので、絵の具などもかなり高価なものを使っている。金に糸目を付けず絵画を探求できた稀有な人だったようで、その際限のない探求心から生み出される絵が見る人の心を鷲掴みにするのでしょうね。
「紫陽花双鶏図」
このほか、水墨で踊るような鶏の動きを見事に描いた屏風図なども良く、若冲だけでも見どころ満載です。私は若冲が誰よりも「画狂」なように感じます。
2 醒めたグロテスク 曽我蕭白
今回の絵師の中で「奇想」というと、個人的には、この蕭白とあとから出てくる国芳が特に当てはまると思っています。ただし、二人はかなりタイプは違います。
まずは蕭白ですが、この方、本当に迫力ある筆致、独創的な構図、江戸の絵師の中で最も自由奔放さがあり、まさに絵師本人も含め「奇想」を具現化しています。
「唐獅子図」(右) 1764年(明和元) ※ 重要文化財
「唐獅子図」(左)
個人的には、ちょっと好きなタイプの絵とは違いますが、見ていて面白く、圧倒されるのは確かです。
3 京のエンターテイナー 長沢芦雪
長沢芦雪は、今年の1月に三井記念美術館に円山応挙の国宝「雪松図屏風」を見に行ったときに「白象黒牛図屏風」という屏風が展示されていました。屏風を飛び出さんばかりに大きく描かれた白象、黒牛。白象の背中にとまる小さな烏、黒牛のお腹に座るかわいらしい小さな白犬。と、ほのぼのしておおらかな作品だと思いながら見てきましたが、本展でも展示されています。この短期間に同じ作品を別々の展覧会で二度見るのは初めてです。縁があるということですよね。円山応挙の弟子ですが、応挙とは違った味のある絵です。
「群猿図襖」 1795年(寛政7) ※ 重要文化財
一部ですが、猿の表情が、なんか人を食った感じです。
「花鳥図」
先程の猿とはうって変わって色鮮やかな一枚。こういう絵も描きます。
4 執念のドラマ 岩佐又兵衛
岩佐又兵衛は、意外と展覧会を見ていて、2、3年前に出光美術館で開催されていた源氏物語絵巻展や去年熱海に行ったときに訪れたMOA美術館の浄瑠璃物語絵巻展があります。色鮮やかで伝統的な平安絵巻を彷彿とさせる一方、天狗や妖怪などが生々しいオカルト世界を描く絵師でもあります。顔がかなりしもぶくれでうりざね顔であるのも特徴的だと思います。
「伊勢物語 梓弓図」 ※ 重要文化財
「弄玉仙図」(ろうぎょくせんず) ※ 重要文化財
今回、岩佐又兵衛の絵巻で、賊に女性が刀で刺されるシーン、首や腕などを切り落とされているシーン等、かなり凄惨な情景を生々しく描写した場面が展示されています。当時、物語を伝えるために画家が必要と感じ描いたものをまったく否定するものではないのですが、「えっ」と思うようなドギツさはあるので、見られるときは、ご注意ください。(会場にも注意書きはあります)
5 狩野派きっての知性派 狩野山雪
私はこの画家は本展覧会を見るまで、よく知りませんでした。絵はこんな感じです。
「梅花遊禽図襖」 1631年(寛永8年) ※ 重要文化財
上に伸び、コの字を描いて下に横にと伸びる梅の木の躍動感がすごいです。植物の梅が「動」を感じさせ、そこにとまり羽を休める鳥の「静」がその動きを強調するという、動静が逆転しながら奇妙な対比されている感じがおもしろい絵です。
「武家相撲絵巻」 日本相撲協会相撲博物館所蔵
上部の小さい力士が投げ飛ばされているところなど、かなり漫画的で、こちらも動きのおもしろい絵です。
6 奇想の起爆剤 白隠慧鶴
白隠は禅僧です。臨済宗中興の祖と呼ばれるえらいお坊さんですが、あえてヘタウマな書画で禅の教えを伝えています。これが蕭白などの奇想の画家に影響を与える「起爆剤」になったと考えられています。最近、作品を目にすることも多く人気が高まっているようにも感じます。
「達磨図」
白隠と言って真っ先に思い出すのは、この達磨さんですかね。かなり大きな絵です。
「すたすた坊主図」
この辺のタッチ。顔の表情。ユルカワで、まさに白隠禅師の世界です。他の作品も、ゆるいながらも、どこか人を惹きつける魅力があります。
7 江戸琳派の鬼才 鈴木其一
鈴木其一も近年注目度が上がっている画家で、2016年にサントリー美術館で取り上げられてました。江戸琳派・酒井抱一の弟子です。
「夏秋渓流図屏風」という金地に平面的な苔の緑と渓流の青。立体的な岩と木の幹。そこに紅葉した葉も描かれるという、かなり斬新な屏風絵が本展でも展示されています。が、ここでは藤の花をご紹介。紫の濃淡で藤の花のボリューム感を描き出しています。
「藤花図」
8 幕末浮世絵七変化 歌川国芳
最後は歌川国芳です。この人の絵はとにかく「スペクタクル」。特撮映画の一場面かと思うような構図が正に「奇想」です。これだけドラマチックな場面を描いた浮世絵師はいないでしょう。だからこそ、少し安っぽく思われ、後年、海外では人気を得るも日本ではなかなか脚光を浴びなかった面もあるのでしょう。
本展でも「宮本武蔵の鯨退治」「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図 -鰐鮫-」のようなスペクタクルを繰り広げた絵がある中で今回はこの絵をご紹介。
「一ツ家(ひとつや)」 1855年(安政2) 浅草寺 所蔵
これは、こんなお話が題材です。
浅草寺近くのあばらやに老婆と娘が住んでいました。この老婆は旅人を泊めては殺め、金品を奪うという悪行を繰り返していました。娘は老婆を諫めるも一向に聞かない。
ある日、観音様が美しい童子に化身し、この家に一晩、宿を頼みます。老婆はいつものようにこの童子を殺めようとする。娘は殺生を繰り返さないように懇願するも老婆ははねのける。
この話は江戸時代に伝えられた話で、異説も多いようですが、最後は観音様のお慈悲で老婆は改心(成仏)するとのことです。
真ん中に鬼の形相・立ち振る舞いの老婆の恐ろしい姿を据え、右にそれを引き留めようとする娘の姿を描きます。必死に止めようとする娘の恐怖・憂いを抱いた表情から娘の心のうちが十二分に描かれています。
一方で、左には人間の醜態をさらす姿などどこ吹く風。観音様が健やかな顔で眠られています。この、人間と観音様の対比もとても際立っています。国芳の奇想が発揮された一枚だと思います。
(3) 最後に
奇想の絵師たちですが、実は江戸の「本流」とのつながりもあります。若冲は狩野派や琳派の尾形光琳を研究しています。長沢芦雪は円山応挙の弟子、狩野山雪は狩野派ですし、鈴木其一は江戸琳派、歌川国芳はあの「歌川」の浮世絵師です。
ただ「本流」にとらわれず、自分の描きたいものを描き、自らの絵を探求していく。「絵」に正直で、自由。だからこそ新鮮味を失わない絵を描ける人たちの集まり。それが「奇想の系譜」の画家たち。是非、展覧会で江戸の「奇想」を味わってみてください。
それでは最後に各種リンクです。
まずは、今回の展覧会のベースとなる本のリンクです。
熱海で見た岩佐又兵衛です。
こちらも江戸の本流ではなく再発見された画家。蕭白の影響を受けてます。
こちらは江戸の本流、最後の狩野派。
今年の江戸絵画つながりです。
そして、「奇想の系譜」からも出展あり。
以上、今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
季節は啓蟄を過ぎ、虫もそろそろ目を覚ますころ。だんだん暖かくなりますが、花粉も飛びます。ご注意ください。(うちは私は大丈夫ですが、奥様は花粉症です)
ということで、ではでは。