こんにちは。
木曜日(8/8)から、少し早い夏休みをいただいてます。そこで、さっそく先月なかなか行けなかった美術展に行ってきました。
「メスキータ」
東京ステーションギャラリーで開催中です。「エッシャーが命懸けで守った男」これだけで、かなり気になります。会期末(8/18(日))まで残り少ないですが、簡単ながらご紹介を。相変わらず、まとまりのない内容ですが、しばし、お付き合いください。
それでは、さっそく、美術展へ!
※ 以下の記述は展覧会のパンフレット、作品説明、そのほかWeb上の解説等を参考に記述しています。また作品の写真は図録、パンフレット、美術館の撮影許可エリアを撮りました。
[目次]
I.展覧会概要
(1) 展覧会:「メスキータ」
サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ
日本では未だなじみがない(私も初めて知りました)ですが、オランダの画家・版画家・デザイナーで、1868年アムステルダム生まれのポルトガル系ユダヤ人です。
1882年、国立美術アカデミーを受験するも不合格。若かりし頃は建築事務所の見習いとして働きます。1887年、初等教育の描画教師の資格取得。初期の頃は水彩やドローイングを描きますが、1896年、最初の木版画である自画像を作成。1902年、オランダ・ハールレムの応用美術学校の製図の教師となり、その後、版画も教えることになります。このときの生徒に「だまし絵」で有名なエッシャーがいました。エッシャーの才能を見出したメスキータ。エッシャーは生涯、彼を敬愛したそうです。
1909年に41歳で初の個展、1924・32年ヴェネツィア・ビエンナーレ出展、アメリカの展覧会にも出展する等、活躍を続けますが、そんなメスキータに突如悲劇が襲います。
1944年1月31日深夜、家族もろともナチス・ゲシュタポに捕らえられアウシュヴィッツ収容所へ。2月半ば、主を失い、もぬけの殻となったメスキータ宅を訪れたエッシャーは事情を察知し、残された作品200点を持ち帰ります。次にエッシャーが作品を救い出すために戻ったときには既に家にはカギがかけられていたようです。ただ、2月前半にメスキータの友人たちも多くの作品を持ち出して、アムステルダム市立美術館で一時的に保護していました。エッシャーたちがナチス・ドイツから命懸けで守ったものは、師であり友人であるメスキータのその作品でした。
1944年2月11頃、メスキータは収容されたアウシュヴィッツで75年の生涯を終えます。同時期に妻も息子も収容先で亡くなっています。
メスキータの死後、1946年にはエッシャーの尽力によりアムステルダム市立美術館でメスキータの回顧展が開催され、その後も、各地で回顧展が開催されています。
戦争に翻弄される中、エッシャーが命懸けで守り、後世に伝えた師・メスキータの作品。木版画を中心とした日本初の回顧展です。
(2) 会場:東京ステーションギャラリー(東京駅・丸の内北口)
※ 東京駅構内、丸の内北口です。
「ヤーブ・イェスルン・デ・メスキータの肖像」1922年 木版(モデルはメスキータの息子さんです)
(3) 会期・開館時間・展示替等
2019/6/29(土)~2019/8/18(日) ※ あと1週間ほどです。
・休みは月曜ですが、8/12(月・祝)は開館なので、この先休みなしです。(2019/8/10現在)
・開館時間は10:00~18:00。入館は30分前まで。
・金曜はナイトミュージアム!20:00まで開館です。(8/16が該当)
(4) 料金
・一般1,100円、大学生・高校生900円(中学生以下無料)
・東京駅でもらえる東京駅周辺美術館MAPを見せると100円OFFになります。
(5) 訪問時間と混雑状況
・8/8(木)の16:40頃に訪問。平日の夕方でしたが会場内は、結構、混んでいました。ただ、ゆっくり見られるとは思います。
・鑑賞時間は65分くらいでした。
(6) 美術館メモ
・展示自体は撮影NGです。展示室を出たところに撮影可能エリアがあります。(バナーを撮影)
・きれいなミュージアムショップです。カタログ:3,080円、絵ハガキ:162円、Tシャツ:2,700円等が販売されています。今回はカタログ購入です。
(図録表紙。布張りです)
(7) 行くきっかけ(情報源等)
前回の東京ステーションギャラリーさんのルート・ブリュック展のときの次回予告を見て、知りました。ポスターの男性(メスキータの息子がモデル)の眼光にすっかり魅入られての訪問です。
II. 展覧会所感
(1) 個人的な所感
東京ステーションギャラリーさんの次回予告の絵を見てから、ずっーと気になっていました。そして、実際に展覧会を訪れて、さらにその魅力に取りつかれました。
白と黒のコントラスト。大胆・繊細・緻密、すべての彫の組み合わせが生み出す緊張感のある画面。エッシャーが命懸けで守るのが分かります。
平面的な画面は浮世絵の、直線的なデザインはアール・デコの影響と言われます。それらを併せ持ちつつ、個性際立つ鋭敏な木版画の世界。おススメの展覧会です。
今回の展覧会はパンフレットも何種類も作成されていて、すごい力が入っています。
すべては持ち帰れなかった(もう、無くなっているのもあるかも)のですが、持って帰ってきた分、ご紹介です。
「ワシミミズク」(1915年) 木版
「鹿」 1925年 木版(角の形が、デフォルメされ、アール・デコ風です)
「アルム」1919年 木版
以上、パンフレットの表面です。続いて裏面は・・・
以下、作品紹介の部分のみ
さて、それでは、いよいよ会場の中へ。
(2) 展覧会の構成と気になる作品
第1章 メスキータ紹介/Introduction
パンフレットにかなりの作品が紹介されていますが、ここからは、私が特に気になった作品をご紹介します。まずは3階展示室から。
「小さな自画像」1896年 木版
メスキータ最初の木版画です。鏡をのぞき込む姿でしょうか。メスキータは自画像やポスターの息子さんの絵をはじめとした家族をモデルとした作品を数多く残しています。
「メメント・モリ(頭蓋骨と自画像) 1926年 木版
「メメント・モリ」=「死を忘れるな」
西洋芸術でよくモチーフとされる題材ですが、60歳のメスキータは近づいてくる死と向き合うという構図をとっています。そして、その顔は少し力なくも見えます。規則的な横の彫、彫残しで描かれる深い皺。卓越した表現力で、メスキータの心情まで伝わるかのようです。
なお、本展では版画の刷りの段階(=ステート)が異なる作品がいくつか展示されています。ステートの違いを見ることで完成に至るまでの制作過程をうかがい知ることができます。この作品では上が第3ステート、下が第9ステート。頭蓋骨の眼の周りに彫が加えられたり、頭髪の彫が細かくなる等の違いがあります。本作の最終版は第10ステートでした。(本展に展示あり。多くの作品は10前後のステートを経て完成するようです)
第2章 人々/Human Figures
「窓辺の女」1900年頃 パステル、紙
メスキータは木版画以外の作品も数多くの作成しています。版画でもエッチングの作品もあります。個人的には、木版画に比べるとチョッと物足りなさを感じます。ぼかしや色の混ざり合いによる絵画的表現よりも、黒白・線による木版画の表現にメスキータらしさがあるように思います。みなさま、いかがでしょうか?木版画との比較としてご紹介まで。
「うつむく裸婦」1920年頃 木版
細い線と太い線。横の線の違いで巧みに表される光、女性の体のふくらみ。うつむく女性は何に思いをはせているのでしょう。その表現力に目を奪われる作品です。
「母と子」1917年
こちらは、白と黒の面で人物は表現されています。それとは対照的に赤ちゃんの服、靴下の繊維を表現しているかのような象徴的な彫。この違いが画面の中で赤ちゃんの存在感、その重み、服の手触りを伝えているように思います。
それでは、2階の展示室に。
第3章 自然/Animals and Plants
メスキータは鳥や動物たち、花など、自然をモチーフとした作品を数多く残しています。こちらでは、自然を描いた作品が展示されています。
「シマウマ」1918年頃 木版
エッシャーの言葉です。
「彼はもともと鮮やかに黒と白に色分けされている自然界のモチーフを題材にして、黒と白の明確な表現の木版画を作ることには反対していた。私には彼の声が、昨日のことのように聞こえるー『シマウマっていうのは生きている木版画だ。そのシマウマをもう一度木版にすることは、自制しなくちゃいけない。』あとになって、彼自身が木版画で《シマウマ》を制作していたことを知り、私はどんなに驚いたことか。」
エッシャーも驚愕の"曰く付き"作品です。
「ウォーターバック」1921年 木版
細かい彫で闇に包まれるその輪郭を表しつつも、耳・首には大胆な白を持ってくる。実際の作品は、黒がもっと鮮やかで、黒い「余白」が光のない闇の世界を強調しています。
「モモイロインコ」1917年 木版
こちらも単純化された規則的な線の繰り返しと彫のない黒の組み合わせで、鳥の羽の感じが巧みに表現されています。
第4章 空想/Fantasy
メスキータは次のようなことを言っています。
ドローイングは「まったく意図していない無意識の表れ」であると。
シュールレアリズムが提唱したオートマティスム(自動記述)の先駆けと言えるかもしれません。メスキータの多彩さが伺えます。
「ファンタジー:微笑む男たち」1904年頃 鉛筆、水彩、紙
得体のしれない絵です。無意識を表現することはかなり難しいことだと思います。このとき、いったい彼に何が訪れていたのでしょうか?(無意識だから本人にも分からない。そこに芸術が宿るのか)
第5章 ウェンディンゲン
さいご(と言いつつ、第3章の展示エリア内)は、メスキータが手掛けた雑誌の表紙デザインです。「ウェンディンゲン」は雑誌の名前で「建築と友好」協会が建築にとどまらずすべての芸術を網羅し、建築と美術の統合を目指した雑誌です。意味は「ねじれ」
メスキータは1902年から「建築と友好」協会の会員として活動しており、この雑誌もメスキータの特集を組んでいます。
パンフ裏面に「ウェンディンゲン」表紙が2種類掲載されていますので、ご参照まで。
(3) さいごに
かなりの作品数で、他にいっぱい紹介したい作品があります。
メスキータも日本から見れば新たに「発見」された芸術家。東京ステーションギャラリーさんの着眼点、企画力は本当にすごいと思います。今年の展覧会の中でも1、2を争う、新発見の秀逸な展覧会でした。残り期間は少ないですが、もし、機会がありましたら、実際に本物を見てみてください。
それでは、最後にリンクです。
東京ステーションギャラリーさんの前回展覧会。
www.yorocon46.comちなみに次は岸田劉生展(8/31(土)~)です。
こちらは8月の展覧会です。
美術館出口のバナーから。
「トーガを着た男」1923年 木版
かっこよすぎます。
ということで、以上です。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ではでは。