こんばんは。
展覧会の鑑賞報告です。
日本絵画の展覧会が続いてましたが、久々の西洋絵画の展覧会です。
ラスキン生誕200年記念
「ラファエル前派の軌跡展」
ラファエル前派?
5・6年前までは、こんな感じでした。
若かりし頃、印象派の展覧会はよく見に行っていましたが、このタイプの絵はあまり見に行かなかったです。でも、最近では結構はまっていて、今では展覧会があると見にいくようにしています。
今回も、また、まとまりのない内容ですが、どのような絵か、ご紹介してみたいと思います。しばし、お付き合いを。
それでは、早速、展覧会に行ってみましょう!
※ 以下の記述はラファエル前派展のパンフレット、作品説明、図録、Web上の解説等を参考に記述しています。また作品の写真は会場の撮影可能な作品及び図録を撮りました。
[目次]
I.展覧会概要
(1)展覧会:ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展
ラファエル前派はラファエロもイタリアも関係ない19世紀半ば、産業革命の進むイギリスで起きた絵画運動です。
1848年、イギリスのロイヤル・アカデミー美術学校の同級生であるロセッティ、ミレイ、ハントの3人で結成された「ラファエル前派兄弟団」が始まりです。その後、ロセッティの弟など4名が参加しています。
産業革命のイギリスで、古い慣習にとらわれ、新しい表現を認めない学校の方針に不満を持ち、イタリア・ルネッサンス期のラファエロ以前の自然に忠実な絵画を描こう!といった運動です。(ラファエロをお手本にしていた美術学校の方針への反発が「ラファエル前派」の名前の由来です。「ラファエル」はラファエロの英語読みとか)
この「自然に忠実」ということを評価し、理論的な支えとなったのがラスキンです。ラスキンはターナーを敬愛し、その絵をお手本としています。
ラファエル前派は、産業革命で生活は便利になりながらも自然を失いつつある環境、豊かになることで美術品を集めたいというブルジョアの欲求、一方、大量生産で安くても「美しくない」商品が出回り、職人の仕事が奪われつつあった現状、これらの社会背景の中、伝統的な仕事を尊重し、生活と芸術を一致させようという「アーツ・アンド・クラフト運動」へとつながり、ここで壁紙などで有名なウィリアム・モリスにもつながっていきます。
19世紀フランスを中心とした印象派とも並ぶイギリス中心の一大絵画潮流・ラファエル前派。150点近いの作品から、その軌跡をたどる展覧会です。
(2) 会場:三菱一号館美術館(東京・丸の内)
JR東京駅丸の内側に出てから5分くらい。今回はその前に外苑前でまたまたラグビーを見たので東京メトロ銀座線・京橋から歩きました。それでも10分程度でしょうか。KITTE(郵便局)も東京国際フォーラムさらには皇居も近く、もちろん丸の内のど真ん中という好立地です。今回の企画展も、なかなか力が入ってますので、是非。
(3) 会期・開館時間・展示替等
2019/3/14(木)~2019/6/9(日)
・月曜休館です。3/25、4/29、5/6、5/27、6/3は開館。GWはずっと開館です。
・3/25、5/27は「話しながら見ると、作品はもっと楽しく鑑賞できる」という美術館独自のコンセプトから開館されるトークフリーデーだそうです。小さいお子様がいらっしゃる方などにおススメだと思います。(逆に静かに見られたい方は外した方が良いかも)
・開館時間は10:00~18:00。入館は30分前まで。
祝日以外の金曜日、第2水曜日、6/3~6/7(最終週の平日)は21:00までのナイトミュージアムです。
・展示替えはありません。
(4) 料金
・大人1,700円、大学・高校生1,000円、小・中学生無料
(前売券を購入していたので、1,500円でした)
・東京駅で「東京駅美術館MAP」を探して持っていくと100円引きです。(写真は3月までのMAPですから、4月以降は新しいMAPを駅で取ってください)
・渋谷Bunkamuraのプーさん展、恵比寿の東京写真美術館と相互割引があります。
・リピート割(200円)、アフター5女子割(第2水曜日17:00以降女性は1,000円)等もあります。
(5) 訪問時間と混雑状況
3/16(土) 16:00過ぎ、鑑賞時間は約80分。(今回は珍しく奥様と二人で訪問)
・人は多かったですが、鑑賞に支障があるほどではありません。
・今後、GWや会期末は混むことが予想されます。できるだけGW前で見られるのが良いと思います。(写真撮影できるエリアがあるので、混んだら見ているどころではなくなるかも。要注意です)
(6) 美術館メモ
・写真撮影は、「第2章 ラファエル前派」という今回の展覧会の目玉のエリアで、2部屋あるうちの最初の部屋がOKです。そのエリア以外は撮影NGです。写真を撮られる方にはおススメです。ただし、フラッシュ・三脚は作品保護や鑑賞の妨げにならないためにも当然NGです。ご注意ください。
・ミュージアムショップでは、図録2,300円(購入!)、絵ハガキ150円でした。このほか、モリスにちなんだ図柄の入ったタイル(2,300円)や展覧会限定ジャムなども販売されています。ちなみに絵ハガキはあまり種類がないです。写真が撮れるからかなぁ?
・ミュージアムカフェ(Cafe 1894)があって、展覧会タイアップメニュー(デザート)もあります。
(7) 行くきっかけ(情報源等)
本展は、チラシミュージアムでも見ました。日経大人のOFFでも見ました。ただ、前回、同じく三菱一号館美術館で開催されたフィリップス・コレクション展を見に行ったときの次回予告を見て、すでに行くことを決めていました。
II. 展覧会所感
(1) 個人的な所感
若かりし頃、よく知らなかったですねぇ。
で、数年前、パリに旅行で行ったとき、奥様が行きたいというので行った美術館で、たまたま開催していた企画展が「ラファエル前派」展。これを見て以来、神話等を題材としても、古さを感じさせず、美しく表現された作品が急激に気になり出しました。(奥様もこのとき以来ラファエル前派を好きになった様子)
それ以来、ラファエル前派を追っていますが、今回もラファエル前派を代表する画家たちの作品が一堂に会し、その魅力を感じることのできる展覧会だと思います。
(2) 展覧会の構成と気になる作品
三菱一号館美術館は1Fでチケットを買うとエレベータで3階まで上がり、3階から2階へと続く展示を見て回ります。(今回、目録にMAPが無かったので、展示位置の掲載は割愛です。すみません)
それでは、いよいよ展覧会場へ。ラファエル前派の絵画はこんな感じです!ということで、気になった作品をご紹介。
第1章 ターナーとラスキン
3階展示室、最初の展示です。ラスキンはターナーの水彩画を愛し、コレクションを形成するとともに、自身も素描をつうじて、じっくりと自分の興味のあるものと対峙していきました。そんな、ターナーとラスキンの作品が紹介されたエリアです。
ウィリアム・ターナー「ナポリ湾(怒れるヴェスヴィオ山)」1817年頃
ターナーはこのときはまだナポリを訪れておらず、イタリアを訪問したイギリス人のカメラ・オブスクラをもとに描かれたようです。
ジョン・ラスキン「ストラスブール大聖堂の塔」1842年
ストラスブールはドイツに近いフランスのアルザス地方の町です。おとぎ話に出てくるような木組の家が有名で、手前の家が、それです。ラスキンはこのほかに山・川や建物の装飾に関する素描も多数残しています。その一つが、次の絵です。
ジョン・ラスキン「渦巻レリーフールーアン大聖堂北トランセプトの扉」
本物に忠実であることを絵に求めたラスキンらしく、写実的な作品です。
第2章 ラファエル前派
いよいよ、本題です。撮影可能な部屋があります。なので、実際に撮影した写真を交え、紹介します。
ウィリアム・ホルマン・ハント「誠実に励めば美しい顔になる」1886年
ラファエル前派創設時のメンバーのハントの絵です。赤らむ頬が印象的な作品です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「結婚通知-捨てられて」
ミレイは「オフィーリア」で有名な画家です。とても美しいけど、少しはかない女性を描きます。
そして、本展覧会の主役の一人・ロセッティ。ロセッティは最初、ラスキンとは親密な関係でしたが、パンフレットの絵(ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルデイア(魔性のヴィーナス)」1863-68年)に対してラスキンは「粗雑」という批判をして、その後、二人の仲は戻らなかったようです。
ラファエル前派の支柱、ロセッティの作品はこんな感じです。
ロセッティ「ムネーモシューネー(記憶の女神)」1876-81年
ロセッティの女性は、とても美しいのですが、なんか骨ばって、かなり体格も良く、男が女装した感じに見えませんか?男性をモデルにしていたのではないか?とも思っていたのですが、ロセッティの女性の好みに依っているようです。ロセッティはモデルの女性は恋人でもあったようですが、その一人がこちら。
ジェイン・モリス。1865年撮影。ロセッティの恋人で、ウィリアム・モリスの奥様。こちらの顔を見ると、確かに絵はモデルの顔を忠実に描いていると言えます。このほかのロセッティの恋人でありモデルの女性の写真を見ても、かなり体格が良く、はっきりした顔の女性が多いです。ジェイン・モリスをモデルとした作品をもう一つ。
ロセッティ「《水辺の柳》のための習作」1871年
確かにモデルに忠実だったことが分かります。
ここからは、次の部屋に移りますので、撮影はNGになります。
アーサー・ヒューズ「音楽会」1861-1864年
私は、この展覧会ではこのアーサー・ヒューズの絵が一番好きでした。特にこの音楽会は美しいのですが、何か重苦しい雰囲気が漂っています。個人の勝手な思い込みですが、中心にいる女性は病気か何か、逃れられない運命の中にいて周りの家族はその運命の重さを受け入れつつも受け入れきれない。そんな中、穏やかな旋律が流れている。というようなストーリーを想像してみました。(勝手な感想ですので、ご容赦)
この絵は「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルが高く評価した作品のようです。
ジョン・ウィリアム・インチボルト「アーサー王の島」1862年頃
島も海も飛ぶ鳥たちも臨場感もあり、自然に忠実な作品だと思います。(ハワイのシーニック・ポイントにありそうな風景)
第3章 ラファエル前派周辺
ここでは、ラファエル前派の綿密な観察により自然を忠実に描くという思想の影響を受けた作品が並びます。ウィリアム・ヘンリー・ハント「ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣」1840年頃
まさに自然に忠実に、とても写実的な作品です。
フレデリック・レイトン「母と子(サクランボ)」1864-1865年頃
母と子、美しいサクランボの赤。微笑ましい作品です。よく見ると背景には鶴の絵のつい立。当時の日本の装飾芸術の流行もうかがわせる作品です。
第4章 バーン=ジョーンズ
ラファエル前派の主役の一人。本展覧会でも大きく取り上げられているバーン・ジョーンズの作品群です。ラスキンはバーン・ジョーンズの師であり、若いころのバーン=ジョーンズはラファエル前派から大きな影響を受けています。
バーン=ジョーンズ「赦しの樹」1881年-1882年
トラキア王の娘ピュリスは愛するデーモポーンに捨てられ、絶望の末、自ら命を絶とうとすると奇跡によってアーモンドの木に変えられます。その後、心から後悔したデーモポーンがその木を抱きしめると幹からピュリスが出てきて愛情深い赦しを与えて彼を包み込んだというオウィディウスの「ヘロイデース」から取られた話を題材にしているとのこと。男女どちらの表情も「赦し」という感じはしませんが・・・
バーン=ジョーンズ「三美神」1885-1896年
油彩バージョンの「ウェヌス・コンコルディア」に登場する三美神の実物大下絵とのこと。三美神はユピテルとユノの娘でエウプロシュネ(喜び)、アグライア(優美)、タレイア(若々しい美)という名前だそうです。
第5章 ウィリアム・モリスと装飾芸術
最後はラファエル前派から工業製品のデザイナーとして活躍したウィリアム・モリスとモリス商会の作品です。産業革命とラファエル前派。
モリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年以降モリス商会)の装飾用敷物の図柄です。自然を図柄に取り入れるのはウィリアム・モリスの特徴の一つです。
このコーナーでは、このほかにタペストリーやソファーや椅子等も展示されています。同じデザインの椅子はミュージアムショップでも販売されていましたが一つ270,000円、360,000円(380,000円だったかも)と、なかなかの価格です。欲しいけど・・・
(3) 最後に
文学などの幻想的な主題に対し、現実のモデルや自然を忠実に写し取って表現されたラファエル前派の作品。美しくも、どこかアンバランスな感じも受けます。産業革命という人類で最初の体験をしたイギリス、これまでの生活や自然との付き合い方の見直しを余儀なくされた。そんな社会環境の中で生まれたラファエル前派ならではの美しさの中に潜む「危うさ」なのかもしれません。自由な表現をラファエル以前に求めた新しい運動。そこには、いろいろな社会的葛藤も込められているように感じます。だからこその美しさなのでしょう。
日本では夏目漱石も「草枕」で話題に取り上げたラファエル前派。印象派とは違うもう一つの美術革命を是非、味わってみてください。
それでは、最後にリンクです。
ラファエル前派・ミレイの代表作「オフィーリア」。
こちらはスウェーデンのアーツ・アンド・クラフト運動です。
三菱一号館美術館の一つ前の展覧会。
以上です。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本展覧会はまだまだ会期もあります。クリムトなどの象徴主義のスタートになったと言われるラファエル前派。これから象徴主義の展覧会が続きますので、是非とも本展もご鑑賞ください。
ということで、ではでは。