こんばんは。
展覧会の鑑賞報告です。今回は先週の日曜日(4/7)、上野で桜を見た後に行きました。
「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち」
モローと言えば、サロメの画家というイメージがありますが、そのサロメをはじめとして象徴主義を代表する画家・モローの作品がフランス・パリは国立ギュスターブ・モロー美術館から14年ぶりに来日しています。会場はけっして広くはないですが、ギュッとモローが詰めこまれた、そんな展覧会です。
今回も、まとまりのない内容ですが、どのような展覧会か、ご紹介してみたいと思います。しばし、お付き合いを。
それでは、さっそく、展覧会に行ってみましょう!
※ 以下の記述はギュスターヴ・モロー展のパンフレット、作品説明、図録、Web上の解説等を参考に記述しています。また作品の写真はパンフレット・図録を撮りました。
[目次]
I.展覧会概要
(1)展覧会:ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち
ギュスターヴ・モローは1826年4月6日フランス・パリに生まれます。(~1898年4月18日)
(「24歳の自画像」1850年)
モローは建築家の父、音楽家の母の長男として生まれ、一つ下に妹カミーユがいます。このカミーユは13歳のときに亡くなってしまい、その後、両親からの愛を一身に受けます。特に母親ポーリーヌ・モローの存在はモローにとっては特別で「この世で最も大切な存在」でした。ポーリーヌの素描だけでも40点にのぼるとのこと。
幼少期からデッサンに親しんだモローは1846年国立美術学校に入学。その後、2回ローマ賞に応募するも落選。国立美術学校を退学して、ルーブル美術館の模写制作の依頼などを請け負います。1852年26歳で「ピエタ」(不明)でサロン入選。当時はシャセリオーと親交があり、影響を受けています。
1859年33歳の頃、モローの人生に大きな影響を与えたもう一人の女性、アレクサンドリーヌ・デュルーと出会います。このモローより10歳若い女性と、結婚はしませんでしたが、アレクサンドリーヌが亡くなる1890年まで親密な関係を築きます。(なぜ、結婚しなかったのか。チョッと不思議です)
モローは教育者としても優れ、1891年に臨時職として就き、1892年66歳で正式に教授に任命された国立美術学校ではルオーやマティスを教えています。モローは自由な個性を尊重する教育方針だったようです。教え子を見るとうなづけます。ルオーはモローの自宅が遺贈された国立ギュスターヴ・モロー美術館の初代館長にもなっています。
今回の展覧会ではそのフランス国立ギュスターヴ・モロー美術館から69点が展示されています。
(2) 会場:パナソニック汐留美術館(汐留・新橋)
※最近名前が変わっています(前はパナソニック汐留ミュージアム)。私はいつも新橋駅の汐留口から美術館のあるパナソニック東京汐留ビルまで歩いています。10分かからないくらいですかね。美術館はビルの4Fです。新橋から歩く途中に食事をするところもいろいろとありますし、近くに日テレもあります。劇団四季の劇場もあります。都営地下鉄・大江戸線の汐留駅からだと5分くらいのようです。こちらからだと小籠包の美味しい台湾の「鼎泰豐」も近いようなので、今度、寄ってみたいです。散策していてもけっこう楽しめる場所だと思います。
(3) 会期・開館時間・展示替等
2019/4/6(土)~2019/6/23(日)
・展覧会の開始日!モローの誕生日なんですよね。あわせたのか、偶然か?!
・水曜休館です。ただし、5/1、6/5、6/12、6/19は開館。6月は休みなしです。
・開館時間は10:00~18:00。入館は30分前まで。5/10(金)、6/7(金)はナイトミュージアムで20:00まで開館です。(入館は19:30まで)
・展示替えはありません。
(4) 料金
・大人1,000円、65歳以上900円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料
・美術館ホームページに100円引きのクーポンのページがあります。(プリントアウトするか、スマホの画面に表示してチケット購入時に受付の方に見せればOKです)
(5) 訪問時間と混雑状況
4/7(土) 16:00過ぎ、鑑賞時間はゆっくり見て約90分。(1時間くらいでも見られます。ゆっくり見られた方が良いですが)
・人はいますが、混雑はしていません。比較的ゆっくり見られます。
(6) 美術館メモ
・展示会場の写真撮影はNGです。(出口に記念撮影コーナーはあります)
・展示会場の出口付近にルオーギャラリーがあり、ルオーの作品も数点展示されています。(この美術館と言えば、ルオーです)
・ミュージアムショップがあります。
・図録は2,400円です。今回は購入しました。
・入館料・ミュージアムショップともにカード利用可能です。
・本展は巡回展で図録に掲載されていて本展で掲載されていない作品は巡回先のあべのハルカス美術館、福岡美術館に出品されるそうです。(羨ましい^^;)
(7) 行くきっかけ(情報源等)
本展は、日経おとなのOFF1月号で見て行くことを決めてました。2017年11月、フランスのギュスターヴ・モロー美術館に行ったので、そのとき以来のモロー作品をまとめて見る機会として、楽しみにしていました。
II. 展覧会所感
(1) 個人的な所感
象徴主義の巨匠・モローですが、象徴主義とは・・・
フランス語で「symbolisme(サンボリスム)」。象徴主義は、19世紀後半の文学・芸術運動で文学ではシャルル・ボードレールの「悪の華」が起源とか。絵画だとモローのほかに最近、展覧会のあったムンクやルドン、これから展覧会の始まるクリムトなどがあげられます。
見たものを美化せず、ありのままに表現しようとする「自然主義」に対抗し、観念・内面的世界・魂を古代のギリシャ神話や聖書など象徴するものに置き換えて表現しようとした芸術運動です。「見たものを、ありのままに」は印象派の世界で、これに対抗したとも言えます。産業革命以来の現実主義・物質主義に対して内面世界を描こうとする運動。源流はラファエル前派ともつながっていきます。
モローの言葉「私は見えないもの、感じるものだけを信じる」
それでは、そんなモローの世界へと入ってみましょう。
(2) 展覧会の構成と気になる作品
受付でチケットを購入し、会場へ。会場は4つの章に分かれています。
それでは、早速、会場内に。
第1章 モローが愛した女たち(Moreau's Beloved Women)
ここでは、最初に紹介しました自画像の他に、モローに多大な影響を与えた母ポーリーヌ・モローと恋人アレクサンドリーヌ・デュルーにまつわる作品が展示されています。
恋人のアレクサンドリーヌは、こんな感じの人です。
(アレクサンドリーヌの写真)
「アレクサンドリーヌ・デュルー」(鉛筆・インク)
母を亡くした後のモローはアレクサンドリーヌに心の平安を求めますが、1890年アレクサンドリーヌが54歳という年齢で早く亡くなってしまいます。このときは、本当につらかったようです。(「パルクと死の天使」という作品が死後に描かれた絵として展示されています。「パルク=人間の運命を支配する女神」ですが、黒く顔が描かれておらず、かなり暗い精神状態だったと推察されます)
彼女の死後、モローは自宅を美術館とすることに決めたようです。
第2章 《出現》とサロメ(The Apparition and Salome)
モローの代表作と言えるサロメに関する作品です。サロメとは・・・
新約聖書にある物語で、ドラクロワやシャバンヌなども取り上げており、モローもこれらの作品に触発されたのかもしれません。物語はユダヤ・ヘロデ王は王女サロメの美しさに心奪われる。一方、サロメは囚われの身である洗礼者ヨハネに恋をしてしまう。でもヨハネはサロメを受け入れない。いつかヨハネに口づけすることを誓うサロメ。サロメに魅せられたヘデロ王は執拗にサロメに踊るように要求し、踊ればなんでも褒美をとらせると言います。サロメは7つのヴェールの踊りでこれにこたえ、望みのものとしてサロメの首を要求。王は最初、この望みを拒むも断り切れず、サロメにヨハネの首を差し出します。ヨハネの生首に口づけて踊り狂うサロメ。それをみたヘデロ王は周囲の兵士にサロメを殺させてしまう・・・
モローは1872年以降、官能と罪の香りで男を誘惑するこの妖女を、モローがテーマとした「ファム・ファタル(宿命の女)」の典型、世紀末芸術の"シンボル"的存在として、モチーフとした作品を数多く残しています。
「洗礼者ヨハネの斬首」1870年頃
今、首を落とされようとする愛しきヨハネを冷静に見つめているサロメの姿。美しくも罪深い姿が「ファム・ファタル」というところでしょうか。
「サロメ」(油彩の習作)
エキゾチックな服装は古代エジプトから、さらにはインドの細密画における女神の装飾や中世フランスの装飾文様が参考にされています。モローは図書館でインド細密画を閲覧していたようです。サロメのわきには大きな蛇も描かれています。
「出現」(1876年頃 油彩)
今回のモロー展の最大の目玉と言っていいでしょう。1876年のサロン出品予定でしたが、この油彩は完成されず、水彩画が出展されます。今、水彩画はルーブルにあるようです。
ヨハネの首の出現は周囲の人が首に関心を示していないことから、サロメの幻視とのこと。
比較的たくましく描かれたサロメの体が、自らの宿命と対峙する強い女性として描かれています。とにかく、とても神秘的な一枚です。
こちらの絵はよく見ると油彩と線描が組み合わさっています。特に背景の建物やその装飾は色はぼんやりとしていながら、その上に描かれた線描は緻密にその輪郭をかたどっています。この組み合わせが神秘的な光景をより際立たせています。
(「出現」の一部。建物の装飾・彫像は線描で描かれています)
「サロメ」
こちらのサロメは色白で表情も優しく、周囲の人の視線からも「見られる存在」としてのサロメが描かれています。ヨハネの首と対峙するサロメとは対照的な作品です。
「サロメ」
こちらは右奥で剣を振り上げ、まさにヨハネの首が落とされようとしているときのサロメの横顔です。表情から見て心理的に揺れています。
さて、この絵を見てもう一つ思ったのは恋人アレクサンドリーヌに似ている、ということです。個人的な感想ですが、モローの作品は見ていくと、女性の顔はアレクサンドリーヌに似ているなぁと思える作品がいくつもあります。やはりモデルにしていたのかなぁ。
第3章 宿命の女たち(The Femme Fatales)
ここではサロメ以外の「宿命の女たち」です。ギリシャ神話・聖書等からいろいろな女性像が作品のモチーフとして取り上げられています。
「セイレーンと詩人」
セイレーンはホメロスの叙事詩「オデュッセア」に登場する海の魔物。美しい声で船乗りを引き寄せ、死に至らしめるとの言い伝えとか。セイレーンは足は尾びれのようですが、その足にもたれかかる詩人もセイレーンの声に誘惑された様子。詩人の運命は・・・
この作品は依頼を受けてタピストリーの下絵として描かれたものだそうです。
「デリラ」
旧約聖書に出てくる女性「デリラ」。英雄サムソンの妻でサムソンを裏切る女性でもあります。そんなデリラを色香によって男を破滅へと導く「ファム・フェタル」として描いています。この絵は、オリエンタリズムな女性の姿や衣服が、とても魅力的に感じました。
「エウロペの誘惑」(1868年)
オウィディウス「変身物語」の一部。エウロペへの想いを遂げるべく身体を牡牛に変えたゼウス。ゼウスの姿に驚きながらも、その背中に寄りそうエウロペ。神と人との聖婚。このあと、ゼウスとエウロペの間には3人の息子が生まれたとのこと。
第4章 《一角獣》と純潔の乙女(Pure Maidens and The Unicorns)
ここではモローのもう一つのモチーフ「ユニコーン」にまつわる作品が展示されています。
「一角獣」1885年頃
フランス・パリのクリュニー中世美術館のタピストリーに影響を受け、一角獣をモチーフとした作品を数多く残しています。この絵も、油彩と線描が重ね合わさって表現されています。この絵も今回の展覧会の目玉の一つと個人的には思っています。
「一角獣」の一部のアップです。女性の装飾が緻密な線描を重ねて表現されています。
ちなみにクリュニーのタピストリーはこんな感じです。1500年ごろの作品とか。
最後はルオー・ギャラリーを見て出口の方へ。ミュージアムショップで図録を購入後、会場をあとにしました。
(3) さいごに
19世紀後半の芸術運動「象徴主義」は、ラファエル前派を源流とし、その後のシュールレアリズムなどにも影響を与えたと言われます。そして、その対極の存在として「印象派」 。ラファエル前派のアーツ・アンド・クラフツ運動は「アール・ヌーヴォー」にも影響を与えています。産業革命に始まる技術的な革新と世界の変化は芸術の世界にも大きな影響を与えました。そして芸術の世界も、いろいろな運動が連関しながら、新しい世界に向かってうごめいていく。今、東京では本展に加え、ラファエル前派(三菱一号館美術館)、アール・ヌーヴォーのルネ・ラリック(練馬区立美術館。4/21(日)まで)の展覧会が開催され、もう間もなくクリムト展(東京都美術館)も開催されようとしています。まさに、連関しながら変化していく芸術のダイナミックな動きを直接感じることのできる稀有な期間だと思います。陽気もよくなる季節。是非、展覧会の方にも。
それでは、最後にリンクです。
(2019/4/14追加)
本家フランス・パリのモロー美術館です。
ラファエル前派展です。
アール・ヌーヴォーの代表、ルネ・ラリックです。
象徴主義の画家・ムンクです。
そして本当に最後にですが、本展第1章に展示されていた作品です。
「雲の上を歩く翼のあるアレクサンドリーヌ・デュルーとギュスターヴ・モロー」
今回の展覧会の一押し作品はこれですねぇ。かわいらしくて、微笑ましくて、なによりモローがどれだけアレクサンドリーヌを愛していたか、伝わってくるかのようです。こんな絵が展示されているなんて。是非、見てみてください。
ということで、モロー展の紹介は以上です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ではでは。