こんばんは。年末、少し忙しくて、なかなか記事を書けませんでしたが、久々に展覧会の鑑賞報告です。
今の上野はメジャー級の画家の展覧会が目白押しですが、こちらも、その一つ。
「ルーベンス展」です。
だいぶ前ですが、上野の森美術館で開催中のフェルメール展を見る前に行ってきましたので、ご報告です。会期は、まだまだ年明けまであります。
※ 以下の記述はルーベンス展の作品説明、図録、Web上の解説等を参考に記述しています。また作品の写真などは図録から撮っています。
[目次]
I.展覧会概要
(1)展覧会:ルーベンス展 - バロックの誕生
ペーテル・パウル・ルーベンスは1577年6月28日にドイツ西部・ジーゲンという町に生まれます。(1640年没)
1587年に父ヤン・ルーベンスが死去。母マリア・ぺイペリンクスは子供たちを連れて故郷のフランドル(現在のベルギー周辺)のアントウェルペンに戻ります。ここでカトリックに改宗、カトリック教徒として成長します。ちなみにアントウェルペンは英語読みで「アントワープ」。
ルーベンスは才能豊かな人で画家だけではなく工房経営、外交官そして人文学者と多方面で活躍を見せます。そのルーベンスが1600年から1608年の8年間滞在したのがイタリア。ここで、ルーベンス芸術は多大な影響を受けて花開きます。
本展では、バロック時代、フランドル絵画の巨匠であるルーベンスをむしろイタリアの画家として紹介する試みです。同時期のバロック絵画も展示されています。
ちなみに「バロック絵画」とは・・・
16世紀末から18世紀中ごろまでの絵画や建築、音楽等の様式で、ポルトガル語の「歪んだ真珠」(barroco)が元々の語源という説があります。(諸説あり)
この語源からもわかるように最初は揶揄する言葉だったようです。ルネッサンス期の均整のとれた絵画とは対照的に明暗の対比がはっきりした作品や躍動感に溢れた作品が特徴的です。
(芸術の多くは前時代の人々が揶揄した言葉が、そのまま時代の特徴を表す言葉として残ることが多いですね。「ゴシック」(野暮ったい)しかり、「印象派」(印象的=ぼんやりした)しかり、悪口が始まりです)
なお、バロック絵画はイタリアのカラバッジョが始まりとのこと。フランドルのルーベンス、スペインのベラスケス、オランダのレンブラント、そしてフェルメールもバロック期の画家に位置付けられます。今の上野はバロックの両巨匠の祭典ですね。
あと、ルーベンスといえば「フランダースの犬」(フランダース=フランドルの英語名。作者はイギリスの児童文学者ウィーダ)
画家を目指す主人公のネロが憧れ、雪降る寒い夜、最期に教会で見上げたのがアントワープ大聖堂のルーベンスの祭壇画。私たち世代はフランダースの犬はテレビアニメで放送されていましたので、ルーベンスは意外と身近な存在だったんだぁと思いました。(と言いつつ、実は、ネロの憧れがルーベンスだったということは忘れちゃってましたが・・・)
ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、そんなバロックの巨匠・ルーベンスの展覧会です。
(2) 会場:国立西洋美術館(上野)
JR上野駅 公園口から東京文化会館の右を抜けて直ぐ。2・3分くらいのところにあります。通称「西洋美」(せいようび)。言わずと知れたル・コルビジェ建築の世界遺産です。ちなみに向かいの東京文化会館は西洋美に似ていますが、ル・コルビジェを師とする建築家・前川國男の代表作の一つです。(西洋美については、また別途、記事を作成したいと思います)
(3) 会期・開館時間・展示替等
2018/10/16(火)~2019/1/20(日)
・月曜休館です。ただし12月24日、1月14日は開館。年末年始は2018年12月28日(金)~2019年1月1日(火)、1月15日(火)が休みです。
・開館時間は9:30~17:30ですが、土曜日がナイトミュージアムで9:30~20:00です。(今回もナイトミュージアムの時間を生かして本展及び常設展を見てきました)
・展示替えはありません。
(4) 料金
大人1,600円、大学生1,200円、高校生800円、中学生以下無料
・ぴあで前売り1,400円を買ったのですが、コンビニでの発券料108円を取られて、あんまりお得ではなかったです(^^;)
(5) 訪問時間と混雑状況
12/1(土) 16:40頃 鑑賞時間は約80分でした。
・人は多いですが、混んでるという程ではありません。ゆっくり見られます。
(6) 美術館メモ
・写真撮影はNGです。
・音声ガイドは長澤まさみさんです。(私は利用していませんがご参考まで)
・ミュージアムショップはあります。図録3,000円。このほか、絵ハガキ・クリアファイル・ノート等もあります。
(7) 行くきっかけ(情報源等)
2018年の「日経おとなのOFF」1月号で見たときから、行くつもりでした。あとは、いつものチラシミュージアムでチケット発売時期などを確認しながら、チケットを入手しました。
II. 展覧会所感
(1) 個人的な所感
この日に見たルーベンスとフェルメールは同時代(少しルーベンスの方が年上)の画家で、お互い光の表現に特徴がありますが、これほど対極にいる画家はいないなぁと感じました。同じ日に見に行って、比較できて良かったかもしれません。
私の個人的な印象は・・・
ルーベンス:躍動感・神話の世界・感情的・大作・差し込む光
フェルメール:静謐・日常の世界・客観的・小品・包み込む光
あえて、対極的に書くとこんな感じでしょうか。ルーベンスの光は「線」、フェルメールの光は「面」だと思います。(個人的な所感です)
言語堪能、フランドルからイタリアへ渡り、外交官としても活躍したルーベンス。そんなルーベンスの、ドラマチックな世界が展開された展覧会です。
(2) 展覧会の構成と気になる作品
地下階に降りて会場に入る前のスペースで大画面の映像を流しています。ほとんど見ないで中に入ってしまったのですが、ちょっとは見ておけば良かった。(ちょっと、後悔)
I ルーベンスの世界
今回の展覧会は図録の並びと会場の展示の並びが必ずしも一致していませんので、展示の並び優先で以下、記述します。
このエリアでは、ルーベンスの描いた肖像画等も並びますが、こちらの2点が外せません。
「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」(1615-16年)
ルーベンスの最初の妻イサベラ・ブラントの長女クララ・セレーナの肖像です。
赤味がかった顔とこちらを見る眼、少し笑みを感じさせる口元など、顔や髪ははっきりと丁寧に描かれています。一方で洋服や体は大胆に省略した荒いタッチです。この表現が、より子どもの生き生きした表情を際立たせているように思います。
「眠る二人の子供」(1612-13年) こちらが、西洋美所蔵の作品です。
こちらも赤らんでふくよかで健やかな子どもの顔に対し、布団などは大胆に省略した描き方になっていて、逆に子どもにスポットライトが当たって際立つ絵になっていると思います。この二人の表情はなんとも言えません。(今、私の部屋のカレンダーの絵がこれです。日経おとなのOFF2018/1号の付録です)
II 過去の伝統
1600年5月9日にルーベンスはイタリアに渡ります。最初の滞在地はヴェネチアです。(日本ではこの半年後くらいが関ヶ原の合戦。なんか東西の違いを感じます)
このエリアでは、イタリア滞在時の素描などが展示されています。その中でも・・・
「毛皮を着た若い女性像」(1629-30年)
イタリア滞在時の作ではないですが、見ての通り、ルーベンスによるティツィアーノの模写です。ルーベンスはティツィアーノに影響を強く受けていたようです。それにしても、ティツィアーノが描いたといっても分かりません。私には。
III 英雄としての聖人たち - 宗教画とバロック
さらに地下階に降りた部屋にルーベンスの大作が並んで展示されています。日本初公開の「聖アンデレの殉教」(1638-39年。前掲の入り口付近、看板の絵)等が並びますが、ここでは、この絵が好きでした。高さ295cm*幅220cmの大作です。
「法悦のマグダラのマリア」(1625-28年)
法悦=神の教えを聞き、うっとりとする姿。ルーベンスは失神するかのようにぐったりとしたマグダラのマリアの姿を描き、その両脇を天使たちが支える。そこに神々しい光が差し込むといった、とてもドラマチックな画面を展開しています。マグダラのマリアの表情が、ある意味、生々しくリアルなものとして描かれていて、とてもインパクトのある絵だと感じました。
IV 神話の力 1 ヘラクレスと男性ヌード
ここでは、男性の肉体美に迫る作品が展示されています。ルーベンスは古代芸術を当時の芸術より上にあるものと見ています。古代彫刻にも傾倒していて、特に肉体表現は古代彫刻から学ぶべきであると述べています。ルーベンスの肉体の表現を見ると、確かに古代彫刻に基づくものであるということが感じられます。
「へスぺリセデスの園で龍と闘うヘラクレス」(1635-40年)
ヘラクレスをルーベンスが、龍をフランス・スネイデルが描いた合作です。
V 神話の力 2 ヴィーナスと女性ヌード
ヘラクレスと対峙して女性の肉体の表現としてヴィーナス等の姿が描かれています。
VI 絵筆の熱狂
ルーベンスの躍動感ある絵画と同時代の画家たちの作品が並びます。
ルーベンスは細かく精緻に描くところと、荒いタッチで疾走感をもって描くところと、見事に使い分けて、映画の一場面にもなりそうなスペクタクルな世界を創出しています。
「パエトンの墜落」(1604-05年頃、恐らく1606-08年に再制作)
少年パエトンが父・太陽神アポロに願って太陽の戦車で駆けようとしたところ、パエトンには戦車の馬を御すことができない。軌道を外れた戦車が太陽の熱で地上を焼き払うと、たまりかねた大地の女神ケレスが最高神ユピテルに助けを求める。そしてユピテルは雷でパエトンを打ち殺し、戦車の暴走を止めた・・・
この正に雷が撃ち落された瞬間です。天に向かう戦車に雷が真っ向から撃ち落され、混乱の中、墜ちていく姿が劇的に描かれています。光線・光輪は素早いタッチで疾走感が表現されていると思います。
VII 寓意と寓意的説話
最期は、ルーベンスの描く寓意・寓話の世界です。ルーベンスは人文学者であったように高い教養をもつ人物で、当時、ルーベンスに絵を発注していた人たちもその教養を共有しています。絵の中にいろいろな寓意が込められた作品群です。
「ローマの慈愛(キモンとペロ)」(1610-12年)
ローマ市民の父キモンは罪を犯して牢獄に入れられ、食べ物も与えられず、飢えによる死を待つばかりであった。そこに出産直後の娘ペロが訪れ、母乳を与えてキモンの飢えを癒すのであった。という話のようでキリスト教の「慈愛」を表すものとしてルーベンスもたびたび取り上げた題材のようです。日本人の私には少しセンセーショナルな感じがしますが・・・それはさておき、キモンの肉体美(若干の飢えは感じさせますが)、ペロの官能的な表情等、ルーベンスらしさの出た絵だと思います。
(3) 最後に
ルーベンスとフェルメール。私の中では、対極にある画家だなと思います。
ルーベンスは正に劇的で、壮大な絵を描く画家です。ただ、ルーベンスも、レンブラントも、カラバッジョも、フェルメールも、この時代の画家は光というものを強く絵の中で意識して表現していると感じます。そして、それぞれの画家がそれぞれの光を描いて、画家の個性の一つとして際立っている。この光への探求は、この後の時代の画家たちに受け継がれている、そんな風にも感じます。
ちょっと、話はかわりますが、たまたまテレビ(NHK教育クラッシック音楽館(日曜9:00))を見ていて聞いたこの人のこの音楽はルーベンスの絵(特に大作)に合うのでは!と思いました。(いかがでしょう。人によって感じ方は違うと思いますが、あくまで個人的意見として)
カール・オルフ「カルミナ・ブラーナ」
Carl orff -Carmina Burana /Koninklijke Chorale Cæcilia - YouTube
ということで、ルーベンス展の報告は以上です。
追伸:ルーベンスではありませんが、先週日曜、東京都美術館のムンク展を見に行きました。こちら、私は遅く行ったので大丈夫でしたが、入場待ちが発生しているようでした。中もとても混んでました。早めに行かれることをお勧めします!
ここまで、お読みいただき、ありがとうございました!今年も、あと少し、寒くなりましたが、お風邪などひかれませんように。
ではでは。
(ルノワールによるルーベンス「神々の会議」の模写。やっぱりルーベンスは、いろいろな画家の憧れなんですね)